国防ジャーナル、1998年10月号
金ギョンス
政治学博士、韓国国防研究院責任研究委員
日本列島の東北地域を越え、太平洋に落ちた北朝鮮のテポドン・ミサイル発射実験により当事国である日本は勿論、今まで国際社会において大量殺傷兵器規制のために努力を傾けてきた米国を始めとする西側先進国の世論が沸騰している。
北朝鮮が8月31日に東海岸から発射した飛行体がテポドン・ミサイルなのか、彼らの主張通りに人口衛星なのかに関係なく、北朝鮮が予想より早く中長距離ミサイル開発の入り口に入ったことを意味する。これは、東北ア地域において北朝鮮がロシアと中国に引き続き、3番目に自主生産した中長距離ミサイルを保有したことにより、この地域の戦略的均衡に相当な変化をもたらしたように見える。
このような事実を裏付けるように、最近、米議会の委託を受け、ラムズフェルド前国防長官を委員長にする「弾道ミサイル脅威調査委員会(別名、9人委員会)」が調査、発表した資料によれば、射距離6千km内外のテポドン2号は、アラスカとハワイ等を、射距離1万kmのテポドン3号は、米本土中西部のアリゾナ州とウィスコンシン州まで到達し、5年以内にテポドン2号までは開発可能ということである。
以下、報告では、北朝鮮のミサイル脅威の実体を把握してみて、併せて我々の対応方向に関して論及してみる。
北朝鮮は、93年5月、ノドン1号(射程距離1千km)を試験発射したのに引き続き、最近には、開発を終えて平壌近隣及び北東海岸地域に10余基のノドン1号を配置したものと知られている。これと共に、日本地域は勿論、グアム島まで射程圏に収める最大射程距離4千kmのテポドン・ミサイル開発に狂奔しており、韓国は勿論、日米等、我々の友邦にも大きな衝撃を与えている。
北朝鮮の中長距離ミサイル開発の動きは、去る4月、パキスタンが自主開発した「ガウリ」ミサイルが北朝鮮のノドン・ミサイルの部品と技術で開発されたという主張が台頭し、再び関連諸国の非常な関心を呼んでいる。
北朝鮮は、70年代初め、韓国のランス・ミサイル配置に刺激され、70年代中盤から自主ミサイル開発に着手し、初期には、中国のDF-61とエジプトから導入したスカッド−Bミサイルを逆エンジニアリング(reverse engineering)方法で研究開発に任じた。
80年代初めには、エジプトとミサイル研究開発研究協力協定を締結、本格的にスカッド−Bの複写版であるスカッド−A型を開発して、80年代中盤以後には、イラン・イラク戦争の渦中においてイランが北朝鮮から改良ミサイル購入目的で北朝鮮に資金を支援し始め、90年代に入ってからは、北朝鮮のスカッド−B、スカッド−Cミサイル160余基と12基の発射装置等、1億3千万ドル以上の兵器輸入が行われたものと把握される。
年度 | 主要内容 |
---|---|
1975 | 中国から液体燃料使用弾道ミサイルDF-61購入、基礎研究開始 |
1976 | 76年、エジプトからソ連製スカッド−Bミサイル2基導入、中国技術支援下に自主開発着手 |
1981 | エジプトとミサイル開発協力協定締結 |
1984 | スカッド−Bの複写型スカッド−Aを開発、射程280km、弾頭重量1千kg東海に発射試験 |
1985 | A型を改良したスカッド−B型ミサイルを開発、射程320〜340km、弾頭重量1千kg |
1987 | 同ミサイル量産(月8〜12発生産)、一部イランに輸出 |
1988 | 北朝鮮人民軍第4軍団にスカッド−B型を装備したミサイル連隊編成 |
1989 | 射程500km、弾頭重量700kgのスカッド−C型ミサイル開発 |
1991 | 輸送車兼用発射台36両でスカッド−C型ミサイル旅団編成 |
1992 | イラン及びシリアにスカッド−C型300基販売 |
1993 | ノドン1号(スカッド−D型、射程1千km)発射試験実施 |
1994 | 射程2千〜4千kmのTD-1、2開発中 |
1996 | 北朝鮮、エジプトにミサイル移動発射台生産技術支援 |
1997 | AG-1対艦巡航ミサイル発射試験 |
1998 | 北朝鮮、パキスタン「ガウリ」ミサイル(射程1,500km)実験技術支援説(4月) |
1998 | 北朝鮮、8月31日、テポドン・ミサイル発射実験成功 |
北朝鮮の誘導ミサイル開発経過
このように、北朝鮮がミサイル開発に力を注ぐ理由は、次のような数種類に識別できる。第1に、我が国に対する軍事的優位を維持し、韓国後方地域を打撃可能とすることである。特に、核や化学・生物学兵器が搭載可能な運搬手段を確保するためである。
第2に、在日米軍基地及び日本本土攻撃と共に、さらにグアム及び太平洋の米軍基地は勿論、米本土まで射程距離に収めるのが目標である。第3に、経済的には外貨稼ぎのための輸出商品の役割を期待し、パキスタンの場合、核技術との交換手段ともなり得る。最後に、ロシア、中国から冷戦体制瓦解以後、軍事的支援の弱体化による安保外交的孤立に対する保障措置の性格と合わせて、第3世界圏での国威宣揚の目的も入っている。
北朝鮮の誘導兵器体系の性能と諸元
93年5月29日、咸鏡北道金策市近辺のノドン発射において発射実験したノドン1号の飛行距離は、550kmだったが、実際の射程距離は、1千kmと推定される。
当時の日米の情報判断によれば、ノドン1号が仮推定される射程距離には及ばないが、550km上の目標地点に命中したという。このような判断は、東海上にミサイル弾道データが転化受信用フリゲート艦、掃海艇及び航空機を一定間隔で配置して得た情報を総合して出てきたという。
スカッド−Bを改良したノドン1号は、全長15m以上、弾頭重量900kg以上で化学・生物学兵器が搭載可能で、核物質圧縮機能(1t以下に小型化する場合)が伴う場合、核も搭載が可能で、現在の北朝鮮の技術では、3〜6t程度までのみ圧縮可能と知られている。
ノドン1号は、スカッド−B/Cと同様に、北朝鮮が自主生産したMAZ 543P移動式発射台に積載されて移動し、スカッド−Bが積載している3基のジャイロコンパスが1組になった慣性誘導装置を使用することによって、命中率誤差(CEP)700mに留まっているが、最近商業用GPS(衛星位置確認システム)航法技術を誘導装置に導入したものと知られており、ノドン1号の正確度と効率性を向上させたと西側情報当局は見ている。
区分 | スカッド−B | スカッド−C | ノドン1号(スカッド−D) |
---|---|---|---|
誘導方式 | 慣性誘導 | 慣性誘導 | 慣性誘導 |
射程(km) | 300(全州−蔚珍線) | 500〜550(朝鮮半島全地域) | 1,000(日本名古屋−大阪地域) |
飛行時間(分) | 5 | 6〜7推定 | 10〜12推定 |
被害半径(m2) | 264 | 350〜700 | 未詳 |
命中誤差(CEP:m) | 825 | 700〜800 | 800 |
使用弾種 | HE、化学、核 | HE、化学、核 | 化学、核 |
米情報当局によれば、97年5月、北朝鮮が北東海岸地域に3基、平壌付近に7基のノドン1号を配置完了し、ノドン・ミサイルの他に、「テポドン」ミサイル開発の動きを確認したところ、テポドン・ミサイルは、ノドン・ミサイルとは異なり、2段階ロケットで1段階は既存のノドン・ミサイルのものをそのまま採択しているが、2段階は、スカッド−Bと中国のM-11が採択した胴体を使用することによって、射距離2千km、弾頭重量を1千kgに改良させたという。
「テポドン2号」は、全長18m、直径2.4mで中国のCSS-3やM-11の胴体を採択し、弾頭重量が1千kgの場合、射距離は4千kmに達するものと知られているが、95年、米国NIE(国家情報判断報告書)が明らかにした射距離は、これより遙かに大きい4千〜6千kmでアラスカとハワイ諸島まで攻撃できると伝えられている。
ミサイル脅威分析
我が方の立場における北朝鮮のミサイル脅威は、次のような点が憂慮される。
第1に、射程距離の延長及び拡大の側面において、北朝鮮の新型ミサイル開発により我が方が受ける最も大きな脅威は、朝鮮半島(韓国)全域が攻撃目標となり得ることである。ノドン1号(射程距離1千km)の場合には、日本西部地域(大阪−名古屋)まで射程範囲に収められる。
第2に、ミサイルは、大量殺傷兵器の運搬手段となる点である。北朝鮮の中長距離ミサイルは、彼らが保有している化学兵器や、今後保有を推進中である核兵器等を搭載できる運搬手段であり、特に、これらの大量殺傷兵器が韓国の人口密集地域に投下されれば、恐るべき威力を発揮し得るであろう。参考に、現在のソウル、京畿一円の人口は、約2千余万名で全体人口の40%以上を占めている。
次に、早期警報の脆弱性である。朝鮮半島は、縦深が短いためにミサイル攻撃時、早期警報体制を発動するのが容易ではないためである。
一方、要撃ミサイル(ABM)の効用性も、朝鮮半島の地形上短い縦深と戦場の広域化を予想するとき、大きな期待はできない次第である。北朝鮮は、ミサイルの他に、射程距離が40〜60kmに及ぶ長距離砲を休戦線一帯に大量配置しており、これに対する対備作策も急務である。
要撃ミサイルの効用性と関連して、リスカシー韓米連合司司令官も諜報衛星を通して、敵のミサイル発射を探知した後、即刻ミサイル要撃に入ろうとしても、飛行時間が短く、撃墜が事実上不可能と明らかにしたところである。
最後に、化学・生物学防護施設及び関連装備又は訓練の不備等も問題である。消極的な対策ではあるが、防護対策もまた重要なため、過去の金泳三政府以来、民主化と平和ムードに便乗し、政府の民防衛訓練の密度が相対的に弱体化したという指摘が社会の一角から提起されている。従って、化生防戦勃発時、住民疎開計画は勿論、対民防護施設や装備の具備態勢が不充分である。
我々の対応方向
北朝鮮のミサイル脅威に最も効果的な対応策は、韓米間の連合防衛態勢をより強固にして、有事の際には、北朝鮮が敢行してくる攻撃以上の応酬報復を行う方針(メッセージ)を可能な全ての手段を動員し、「確実に」北側に伝達することによって、これを抑止することである。
例えば、米クリントン政府が97年に発表した大量殺傷兵器対拡散戦略中には、敵が化学・生物学兵器で攻撃してくる場合、必ず核で応酬報復し得るとの言及があったのをより敷衍し、「朝鮮半島を対象にした」公開的な政策表明を導き出すことも1つの方法となり得る。
この他により具体的な対応方向としては、次のようなものが含まれ得る。 先ず、防空システムの強化方案の模索である。現在、日米間で論議されている戦域ミサイル防衛システム(TMD)参与の可能性を打診することと併せて、戦域超高度防空システム(THAAD)、改良型パトリオット、イージス・ミサイル艦の韓国海域配置等を推進する。防空SAMミサイルとしては、価格や運用面で経済的なものと知られているロシアのS-300やS-300VI、II型の導入の可能性も検討し得るであろう。
20億ドルの高価なものと知られているが、イスラエルの最新要撃ミサイル体制(ATBM)Arrowを米国と共に連帯し、運用する方案も検討してみる必要がある。この他に、先進国の誘導エネルギー・レーザー兵器、超高速対空砲(hyper velocity gun)等の最新型防空兵器の開発に直接・間接的に参与し、技術を先取するようにする。例えば、米国、ドイツ、イタリアの3国が推進中である「移動型中長距離防空体制(MEADS)」に参与する方案も考慮し得る。MEADSは、敵の各種ミサイル攻撃や航空機の攻撃から防御できる機動性が優秀な防空兵器体系として、米国政府は、99会計年度に4,400万ドルを投入する計画であると知られている。
第2に、主要軍事施設の分散と共に、要塞化が必要である。即ち、敵の奇襲攻撃を受けたとき、第2撃(second strike)能力を保有できるように、主要軍事施設を分散させて、地下要塞化する作業を強化しなければならないことである。更に言えば、我が方が第2撃能力を充分に保有していると敵が判断すれば、簡単には挑発してこれないためである。特に、有事の際、C4Iシステムの正常稼働が確保され、2撃能力を十二分に発揮できることを看過してはならない。
第3に、民防空訓練の強化と防護施設構築も必要である。必要に応じ、現在の月1回の民防空訓練の回数を増加させるか、対民防護次元において化生防防護装備の家宅配置を義務化させること、現行建築関係法を改正し、新築建物に防空壕設置を義務化させる作業等も考慮対象である。
最後に多少敏感な問題ではあるが、相手側の攻撃開始が緊迫したという確実な証拠を捕捉したとき、「外科手術的な」部分的先制打撃(surgical attack)の可能性も検討し得るであろう。実際に、米国は、「北の核問題」が絶頂の危機に駆け上った94年6月、寧辺核施設を巡航ミサイルで先制打撃する方案を慎重に考慮していたという事実が外信報道を通して知られているところである。
最終更新日:2003/09/01
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